2025年8月  4.ピケティの法則
 第二次世界大戦が終結して80年目にあたる今月、日本の教会が意向に「平和」を取り上げ、そして教皇は意向に「共存」を取り上げています。つまり、二度と戦争を起こさないで「平和共存」に向けて私たちが日々努力を重ねていくことが大切だと、皆が自覚し、それを実践するようにと促されているのでしょう。
 共存のためには、人類が創造した富を、公平に分配することが最も肝要です。もしそれが可能ならば、貧富の差はなくなるからです。経済学はどのようにして富を蓄積するかを研究する学問ではなく、どのようにして富を公平に分配するかを研究するためのものであるべきでしょう。
 今から12年前の2013年のことです。フランスの経済学者トマ・ピケティは一冊の著書『21世紀の資本』を公刊しました。翌年には英語に翻訳され、その後多くの言語に翻訳されました。日本ではみすず書房から2014年に刊行され、13万部に迫る売上部数を記録しました。世界中では累計100万部を突破し、爆発的なベストセラーとなりました。
 日本語版の書籍は、本文608ページ、索引と注、そして図表一覧が合計98ページとなると大著なのですが、その論旨は極めて単純で、「資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す」という法則があるということを、入手可能な過去200年以上の統計的資料を使って検証したことにほとんどの紙幅を費やしています。資本収益率をr、経済成長率をgで表すと、資本主義の歴史は常にr>gの状態を示していたので、経済的不平等が拡大したことが証明された。したがって富を再分配する仕組みを構築することが必要となる。それは累進課税の富裕税を世界的に導入することによって解決可能となる――これが『21世紀の資本』の内容で、r>gはピケティの不等式と呼ばれています。
 それぞれの独立国家は、税と社会保障の政策を駆使して富を再分配する仕組みを構築しています。しかし、国際間ではその仕組みがないことが、ピケティの提案の背景にあります。政府開発援助や、国際的な社会福祉のNGOなどが、格差是正のために細々と活動を進めていますが、r>gをr<gに変える力にはなっていません。
 戦争や紛争の遠因は、貧しさを克服したいという経済的な欲求にあることを学んだ私たちは、世界中が格差是正に向けた政策をとることを願い、そしてそのために祈るように招かれているのでしょう。今は私たちすべてが、格差を広げる仕組みの中で日々を送っていることを忘れないようにいたしましょう。