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2. チャンスとチャレンジ

 私たちは、呼吸している空気のように、知らないうちにその価値観、世界観あるいは偏見を受け入れています。このような世界観がどのように実際に世界を作りあげているのでしょうか。 進歩を無批判に信じることが、偉大な技術の進歩をもたらしましたが、この進歩は世界中の誰もが享受しているわけではありません。西洋の市場資本主義は貧困を緩和するにふさわしい給料の雇用機会を十分に生み出してはいません。合衆国の消費主義を文化輸出は、多くの民族や宗教の伝統的な生活様式や価値観を脅かしています。ほとんどの国々では、女性や子供を快楽と搾取の道具とする男性支配が温存されています。このような世界観は、とくに進歩の名によって地球のいのちが傷つけられ搾取されるという大惨事をもたらしています。この世界観は、多くの人々に特権を与え、彼らが今権力の座にあります。 これに対して、新しい世界観、物の見方が生まれてきています。フェミニズムは、男も女も対等であって、女性の体験に基づいた見方とやり方を尊重することを、市民権・公民権運動は、マイノリティの権利が尊重され、多様性の豊かさと素晴らしさが評価されることを、平和運動は、軍事化と暴力が答えではないことを、環境運動は、地球のいのちを保ち安全を保つことが大切であることを、気づかせてくれました。このような世界観が二元論、父権制、科学万能主義に代わり、理性だけを重んじることのない見方ややり方を深め、広げています。 この世界観はすべての物質が、孤立ではなくつながりあっていると理解します。種は競争によって進化するのではなく、協力関係にあり、変化は単なる原因と結果ではなく、直線上で起こることでもないのです。多様性は一致を強め、排除しないことが鍵となります。二元論的な考え方を拒否し、これもよし、あれもよしとする見方で現実を見るのです。相互性こそ正しいかかわりの特徴であり、女性的なエネルギーが、現代世界を支配する男性的エネルギーの不均衡を正すために必要です。もはや体よりも頭が大切でもなく、理性が唯一の知識への道でもありません。心も体も霊も、フルに生きるために同じく必要です。真理は分かち合われるもので、これからも明らかにされてゆくものです。137億年前の宇宙の起源は、想像を絶する濃密な一つのエネルギーの爆発から起こりました。この地上のいのちの起源は、その光輝く爆発から生まれました。私たちは、皆同じ星屑から生まれたのです。人間として、私たちもこのいのちのネットワークの一部であり、もはや自然に対しても人間に対しても、支配したり君臨したりするものではないのです。 このような見方が、新しい世界観を支えています。これは1世紀の若いユダヤ人の教えを反映しています。イエスは、全ての人間の尊厳と平等を説き、全てのモノを分かち合い、その宗教や政治の立場に関係なく全ての人を食卓に招き、そして、正しいかかわりを最も大切とされる神を愛することの大切さを教えました。この世界観は2000年前も今も、権力の座にあって現状維持から特権を得ている者たちを脅かすものです。 それでは何がチャレンジなのでしょうか? 経済、政治、文化、宗教など、生活の全ての分野に起こっていることを考えるとき、正義と平和に取り組んできた私たちが、信仰の視点から見るとき、行き詰まっているのを感じます。正義のために行動しようとして、全くの無力を感じるのです。意識化教育もやった、行動計画もたてた、けれどもやってきた全てのデモもロビー活動も、無駄であったように感じる。人々の心は変わらない。 カルメル会のコンスタンス・フィッツジェラルドは、こう語っています。「私たちは歴史的時と場において、社会的な袋小路に追い込まれたと深く感じています。すべてはあまりにも複雑で、到底取り組みようもありません。けれどもこの行き詰まりを、祈りによって私たちを愛される神の見方に持って行くとき、社会は養われ、癒され、変えられ、新しい見方というパラドックスに出会い、非暴力で、自己中心でない解放された行動を、地球上の共同体のために起こせるでしょう。」 「行き詰まりを祈りに持って行く」という言葉が私の心に深く刻まれ、行き詰まりに観想と対話の共同体として取り組むことを始めました。

シスター ナンシー・シルベスター(無原罪のマリアの御心侍女会)
全米女子修道会総長・管区長会元会長
「共同体の観想と対話センター」創立者・会長

第30回「正義と平和」全国集会東京大会 基調講演「正義と平和のグローバル化――信仰者への課題」(2004年10月9日)抄訳より抜粋(その2)

(特集-希望の光 2 2004/12/3)

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