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1. 危機でありチャンス

 現在合衆国で起こっている事実で、ただアメリカだけのことではなく日本の皆様の現実にも意味あると思えることを、私の経験と考えることから分かち合います。カトリック者は自分の信仰を政治と経済の現実の中でも生きるように招かれているからです。

 今、米国に何が起こっているのでしょうか。まず、危険である現状です。
 正義にコミットする私たちにとって、米国人であるということは今、困難であり辛いことです。現在世界には唯一つのスーパーパワーがあり、それが私たちなのです。すべてのレベルで米国がすることが、全世界にインパクトを与えます。今日グローバル化はアメリカの顔をしていて、この事実が世界中に憤り、怒り、反対を巻き起こしています。
 現状はブッシュ大統領と彼の政権によってますます悪化しています。恐ろしい9.11の悲劇に対するブッシュ氏は、復讐と暴力によって応えました。これによって米国の外交政策は、外交、交渉、協定を軸としたそれまでの外交政策を逆方向に向けることになりました。イラク戦争は、私たちを恐怖に震え上がらせました。それはイラク戦争こそ彼の新しい外交政策の表現だったからです。彼はテロの時代には、自国の防衛のためには、先制攻撃が正当化されるということを信じて疑わず、国連による諸国の支持を無視して、孤立しても攻撃すべきであると主張します。ブッシュ政権は外交政策の土台となるべき多くの国際協定を拒否しています。対弾道弾ミサイル協定、京都議定書、国際刑事法廷などなど。
 ブッシュ氏は米国の能力を超える巨額の赤字を未来に残しています。彼の経済政策は、大企業を庇護し、金持ちに有利な減税を導入し、しかもこのようなやり方を半永久的にしようとしています。ブッシュ氏は自分を支持する国には援助を与え、そうでない国には援助を差し止めることが出来ると考えています。経済大国―スーパーパワーとして米国は、貿易交渉、WTOにおける取引に多大で不当な影響力を持っています。
 911以後、ブッシュ氏は恐怖を操作する政治を展開しています。私たちの自由を束縛する法律が大急ぎで作られ、政府を批判し、また政府にその発表の事実関係を明らかにするよう要求する市民はテロのシンパと見なされ、国家反逆罪にも問われるような目に遭うことになりました。
 今までは歩み寄りの場であった議会が、危機的状況で分裂しています。議会は熟考の場ではなく、政府の政策を鵜呑みにし、無批判に賛成する場となってしまいました。
 現政権が操作する信じがたいPRシステムは、度々誤解を与えるような、あるいは部分的な情報を流します。事実を全体から抜き取り、政府の研究によって政治色を与えます。現代は増大するコミュニケーションの時代ですが、きちんとした情報がないために、政治的な討論をする可能性を奪われているのです。どこから情報を得るのか、何を信じるかでも、私たちは分裂しています。悪いニュースは聞きたくないので、「事実」と信じたいことで満足し、本当の現実に向き合おうとしません。このように合衆国がますます分裂していることは、きわめて危険なことだと私は考えます。

 それではこの危機的な状況が、どのようにチャンスになるのでしょうか。
 簡単に説明します。ますます多くのアメリカ人、約24%が次のような政策を強く支持しています。環境政策、医療その他の社会的ニードのための増税、労働者への正当な給料を保証するために値上げ、職場と家庭における女性の権利。持続的な生活スタイルを職場にも持ち込むことに前向きな人も増えています。そしてこのような人々の多くが、霊性を求めているのです。今まで自分が信じてきた宗教が与えたよりも、もっと深い霊性―スピリチュアリティーを求めています。
 イラク侵攻は私の国の平和運動を再び強化し、それは世界中で起こっています。また金融を軸とする資本主義にたいするオルタナティブな経済のあり方を創造し、WTOに反対する草の根運動が着実に育ち、地球の健康という緊急課題への意識が広がっています。これらは皆希望のしるしです。
 多分もっとも大切なことは、現状が私たちの取り組んできた社会変革の課題について、もっと深い問いかけをするようにチャレンジしていることではないでしょうか。ブッシュ氏は、確かにこの状況を悪化させましたが、彼一人で私たちをこの大惨事の崖っぷちに引きずってきたわけではありません。つまり今合衆国ではもっと大きな規模の事実があり、これは世界中から見てわかることだと私は考えます。

 この危機は、実は、私たちの生き方に意味を与え、文化、経済、政治、宗教のシステムを作る世界観、パラダイムのラディカルな変革の機会であると私は考えます。

第30回「正義と平和」全国集会東京大会 基調講演「正義と平和のグローバル化――信仰者への課題」(2004年10月9日)抄訳より抜粋 (その1)

シスター ナンシー・シルベスター(無原罪のマリアの御心侍女会)
全米女子修道会総長・管区長会元会長
「共同体の観想と対話センター」創立者・会長

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(特集-希望の光 1 2004/11/26)

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