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6. 折鶴
南三陸町の避難所にあるケアカフェ「心香(coco)」で、ある方に出会いました。
折り紙が非常に上手で、その方が作る折り紙はどれもピシッとしているというか、まさに、折り目正しいという表現がぴったりでした。
特に、折鶴を見た時に、私はなぜかとても心を打たれました。同じように鶴が折れるようになりたいなぁと思い、教えて下さるようお願いしました。
「コツは、組み立てる前に必要な折り目をつけておくこと。」
ここは山折り、あそこは谷折りと、ひたすらに折り目をつけるだけの準備の間は、まさに忍耐の時です。初めは、なぜこの折り目が必要なのかもわからず、言われるがままにただ黙々と作業をしていました。
ところが、全ての折り目を入れ終わると、一気に形が出来ていくのです。一枚の正方形の紙が、あっという間に立体になっていく様子は、まるで手品を見ているような驚きです。そしてついに、私にもピシッとした鶴が折れました。それからは、なぜその折り目が必要なのかが少しずつ分かってきて、準備の時が楽しくなりました。
次の日もその次の日も、その方と一緒に折り紙をしました。一緒に鶴を折りながら、その方が仰いました。
「折るっていう漢字はね、《手へん》を《示へん》にするだけで、祈るっていう言葉になるんです。折り紙は、手で祈っているっていう事なんですね。だから人は、千羽鶴を折るのでしょう。折り紙は祈りと一緒なんですね…。」そして、2羽がその開いた翼でつながっている折り鶴を教えて頂きました。
翌朝、私は苦戦しながら何とか作った、2羽が翼を取り合っている折鶴をその方に差し出しました。「簡単だったでしょ?」その方は、微笑みながら仰いました。私はその方の笑顔を見ることができて、とても満足でした。そしてこの日も一緒に折り紙をしました。
次の日、私はその方に、自分の喜びと感謝の気持ちを伝えました。するとその方は、仰いました。「折り紙の資料を沢山持ってたんだけどね…。ぜ~んぶ、津波で流されちゃった…。」
その方と出会って5日目。今まで色んな話をしたのに、この日初めて、その方の口から津波のお話を伺いました。多くは語られませんでしたが、その時、「折り紙は祈りと一緒なんです」と仰っていたあの言葉が、胸に突き刺さるような思いとなって蘇ってきました。あぁ…ずっと祈っておられたんだ…。
この日が、私が南三陸町にいられる最後の日でした。東京に帰る前に、四羽の鶴が全て同じ向きで羽ばたいている折鶴の作り方を教わり、見本も頂きました。未だに自力で完成する事はできていませんが、私の机の上には、その方から頂いた鶴が飾ってあります。
私はあの方の為に何かできたとはとても言えません。何もできなかった。むしろ教えて頂く事ばかりでした。ですが少なくとも、一緒に折り紙をしたあの時間は、一緒に祈った時間だったとは言えそうです。一つ一つの折り目を準備していく忍耐の時を経てこそ、一気に組み上がっていく喜びの時が来ることを信じ、これからも、あの翼を携えた折鶴のように、共に祈り続けることができたらと思います。
(東京都・男性・蟹潮)
(特集-だれかのためにできること6 2011/8/5)