こころの散歩
奇跡はいくら?
奇跡はいくら?
「どんなご用?」と薬剤師はテスという女の子に尋ねた。
「私の弟の名前はアンドリュー。彼は何か頭の中で大きくなっていく病気をもっているの。パパは奇跡以外その病気を治せないと言っているの。奇跡はいくらなの?」
「ここでは奇跡は売り物じゃないの、かわいそうだけど手伝えないわ」と優しい口調で薬剤師は答えた。
「ねえ、でもお金はあるの。足りなかったらあとで残りは払うから、奇跡がいくらするのか教えてよ!」
薬剤師の兄は上品な紳士である。彼は女の子に聞いた。「君の弟はどんな種類の奇跡が必要なんだい?」
「分からないわ」とテスは目を見開いて答えた。「ただ分かっているのは、弟は重い病気で、ママが言うには手術が必要らしいの。でもパパにはお金がなくて手術代を払えないの。だから私の貯金を使いたいの。」
「どのくらいの貯金があるんだい?」とその上品な紳士は尋ねた。
「1ドル11セントよ」とテスは不思議そうな調子の声で答えた。「今はこれしかないけれど、あとでもっと必要なら何とかするわ」
「それはなんて偶然なんだろう!」とその紳士は微笑みながら言った。
「1ドル11セントは、ちょうど君の弟さんに奇跡を行なえる金額なんだよ」と片手にお金を受け取り、もう片手で女の子を抱えながら言った。「君の家に連れて行って、弟さんに会わせてくれないか? ご両親にも紹介してくれるかい? 君が欲しがっている奇跡を私が持っているかどうか、確かめよう。」
この風貌の良い紳士は、実は神経外科専門医のカールトン・アームストロング医師だった。手術は順調に終わり、まもなくアンドリューは健康を回復していった。テスの両親は、この医師の好意に甘えるという状況を、心から喜んだ。
「このお医者さんは本当に奇跡を起こしたのよ」と彼女の母は言った。「一体いくらしたんだい?」 テスは微笑んだ。彼女は、この奇跡がいくらしたか、正確に知っていた。――値段は、1ドル11セント プラス 小さな女の子の信仰、だった。
(実話 / 五十嵐 京子 訳)
画: 三村 阿紀