こころの散歩

不思議な水

不思議な水

 ある日、一人の女性が聖ヴィンセント・ファーラーのところへやって来た。彼女は「夫は短気で怒りっぽく、もうこれ以上我慢できません。どうしたら家庭に平和と静けさを取り戻すことができるのでしょうか、何かよい手だてはないのでしょうか、なんとか助けてください。」と切実に訴えました。
 聖ヴィンセントは「どうしたら良いかお教えしましょう。修道院に行って、入り口でブラザーに修道院の井戸から少しお水を分けてくださいと頼みなさい。そして、ご主人が帰宅されたら、その水をたくさん口に含みます。でも飲み込んではいけません。じっと口の中に含んでいます、そうすると奇跡が起こりますよ。」と教えました。
 女性は家に帰り、その指示通り細心の注意を払って実行してみました。夕方、夫が帰宅するやいなや不平と批判をしそうになったので、急いで口一杯に不思議な水を含み、唇を真一文字に結んでいた。しばらくしていると夫の怒鳴ったり、わめいたりする声が止んできた。彼女は何度も不思議な水を使ってみたが、その都度に驚くほどの効果が現れるのだった。夫は完璧に変わってきていた。その上、彼女に愛情のこもった言葉をかけ、忍耐強さと寛大さを誉めるまでに至ったのだ。
 彼女は夫に起こったこの大変化に歓喜し、さっそく聖ヴィンセントにこの不思議な水の効果を報告に行った。すると聖ヴィンセントは、静かに微笑み「奥さん、ご主人に大きな変化をもたらしたのは修道院のお水ではないのですよ。実はあなたの沈黙のおかげなのです。以前はあなたの返す言葉がご主人をよけいに怒らせてしまっていたのです。今はあなたの沈黙がご主人の怒りを和らげ、そして静めることになったのですよ。」と説明したのだった。

“MORE STORIES of LIFE and LAUGHTER”Fr.Bel San Luis, SVD
画: 泉 類治
  

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