こころの散歩

悪人ばかりだとけんかにならない

悪人ばかりだとけんかにならない

 あるところに、内輪喧嘩の絶えないA家と平和そのもののB家とが隣接していた。
 喧嘩の絶えないA家の主人は、隣はどうして仲良くやっていけるのか不思議でたまらず、ある日、B家の主人に訪ねた。
「ご承知の通り、私の家は喧嘩が絶えず困っております。お宅は皆さん仲良くやっておられますが、何か秘訣でもあるのでしょうか。一家が平和に暮らす方法があったら、どうか教えていただきたい。」
「それはそれは、別にこれと言った秘訣などございません。ただお宅様は善人様ばかりの集まりだからでしょう。私の家は悪人ばかりがそろっていますので、喧嘩にならないのです。ただそれだけのことです。」
 てっきり皮肉られているのだとA家の主人が激怒しそうになったとき、B家の奥で大きな音がした。どうもお皿かお茶碗でも割ったようである。
「お母さん申し訳ありませんでした。私が足下を確かめずにおりましたので、大事なお茶碗を壊してしまいました。私が悪うございました。お許しください。」
「いやいや、お前が悪かったのではありません。先ほどから片付けようと思いながら横着して、そんなところに置いた私が悪かったのです。すまんことをしました。」
と続いて姑さんの声が聞こえた。
「なるほど、この家の人たちは、皆悪人ばかりだ。喧嘩にならぬ理由がわかった。」
 A家の主人は感心して帰ったという。

  

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