こころの散歩

若い農夫

世継ぎに恵まれないある王が、ふれがきを出しました。
王家の一員となりたい若者は申込書を持って宮殿に集まれ、と。
必要な資格は二つ、神への愛と隣人への愛でした。

一人の若い貧しい農夫も申込書を出したいと思いましたが、ぼろ服を着たわが身を見れば、身の程知らずのようです。
しかし、彼は一生懸命に働いて稼ぎ、新しい服を手に入れ、その服をまとって、さて王家に入れるものかどうか、運だめしに出かけました。

宮殿までの道のりも半ばにさしかかった頃、若者は道端で寒さに震えているあわれな物乞いに出会いました。
気の毒に思った若者は、服を取り替えてやりました。
またぼろ服に戻ってしまったからには、宮殿に行っても仕方がないという気はしましたが、村からはるばる出むいて来たのだから……とにかく予定通り旅を続けようと、若者は考えました。

こうして、彼は官殿にたどり着き、ご家来衆にあざけり笑われたものの、王に目通りすることができました。
ところが、驚いたことには、王をみれば、彼が道で出会ったあの物乞いではありませんか。
しかも、若者が与えた服を着ているのです。

王は玉座から降り、若い農夫を抱いて言いました。
「よく来てくれた。わが息子よ。」

ホアン・カトレット 著 / 中島 俊枝 訳 「たとえ話で祈る―聖イグナチオ30日の霊操―」(新世社)より
画: ホアン・カトレット

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