こころの散歩
「何をしているんだね?」
「何をしているんだね?」
中世の昔、世の中の労働者が自分の仕事をどのように感じているかを調べるために、フランスのある建築現場へ視察官が遣わされた。
視察官は一人の労働者に歩みより、何をしているのかとたずねた。
「これが見えないのか」と労働者は無愛想に答えた。「このロクでもない大石をこんなナマクラな道具で切り出して、親方に言われたとおりに並べるのさ。日は照りつけるし、汗は流れるし、きつい仕事だ。それに死ぬほどたいくつときている。」
視察官は急いでその場を離れ、つぎの労働者のところへ行って同じ質問をした。「何をしているんだね?」
「この大石を決まった形に切りそろえているんです。それから建築家の図面のとおりに組み立てる。重労働だし同じことのくり返しだけど、週に5フランは稼げるから女房と子どもを養えます。結構な仕事です。ましなほうじゃないかな。」
視察官はいくらか気が楽になり、三人目のところへ行った。「ところで君は何をしているんだね?」
「見ればわかるでしょう」と言いながら、三人目の労働者は空へ向かって腕を高く差しのべた。
「大聖堂を建設しているんです!」
いつでも「ゆううつな歌」を歌っている人がいる一方で、何が起きようが、何をしていようが、「楽しき口笛」を吹いていられる人がいることにお気づきだろうか?
人生のつらいときに歌う歌は選ぶことができないように見えるが、そんなことはない。出来事自体は人の力ではどうにもならないことがある。けれどもその出来事をどう見るかは、私たちの気持ちしだいなのだ。
アレン・クライン 著 / 片山 陽子 訳 「笑いの治癒力」(創元社)より
画: フェリペ・オカディス