こころの散歩
「本当によかった」
「本当によかった」
むかし、ある王が、助言を求めるといつも「本当によかった、本当によかった、本当によかった」と言う相談役をかかえていました。
ある日、狩りに出かけたとき、王はけがをして、足の指を切り落としてしまいました。すると相談役は、「本当によかった、本当によかった、本当によかった」と叫びました。王は彼の態度に怒り、彼をクビにしてしまいました。すると、相談役は「本当によかった、本当によかった、本当によかった」と言いました。
月日がたって、王は、ある部族に彼らの神へのいけにえとして捕らえられてしまいました。儀式の準備をしていると、部族の人々は王の足の指が一本足りないことに気づいて、不完全なものは神に捧げるものとしてふさわしくないと判断し、王を自由の身にしました。
やっとこの時、王は相談役の言葉の意味を理解し、「足の親指を失って本当によかった。もし失っていなかったら、私はもう死んでいただろう」と思いました。王は相談役を宮廷に連れて来るよう命じ、相談役に感謝しました。王が相談役に、「なぜクビになった時、『本当によかった』と言ったのか」と聞くと、相談役は答えました。「もしクビになっていなかったら、私はあなたと一緒にいることになり、あなたがいけにえとして不適当と判断されたときに、私があなたの代りにいけにえになっていたでしょうから。」
画: 泉 類治