こころの散歩

あるブーメラン現象

あるブーメラン現象

 気の短い男がある日の午後、妻と買い物のために待ち合わせをしていた。約束の時間になっても妻は来ない。15分間男は辛抱して待っていた。それでも妻は現れない。更に15分間、男はいらいらしながら待っていたが、とうとう我慢できなくなった。たまたま側に2分間で4枚写真が撮れる証明書用写真自動撮影機を見つけて飛び込み、コインを入れ、カメラに向かって顔いっぱいに今の怒りの気持ちをありったけぶつけた表情を作って次々に写真を撮った。出てきた写真は本人もショックを受けるほどに衝撃的な出来栄えだった。
 男は妻の名前を写真の縁に書き付けて、フロントにことづけた。「もし小柄で茶色の眼の女の人が、人を探している様子でやって来たら、これを渡してくれませんか。」
 男はオフィスに戻って、あの写真1枚は1,000字分の説得力があるから、4枚もあれば自分の気持ちは十分伝わったと思うと、仇をとったような気分になるのだった。
 さて一方、妻の方は、今でもその写真を財布に入れて持ち歩き、誰かにご主人は?と聞かれると、必ずこの写真を出して見せるのだった。

“Montrealer”より
画: 白石 龍司
  

ページ上部へ戻る