こころの散歩

ある靴職人の祈り

ある靴職人の祈り

 ある靴職人がラビのもとを訪ねて言った。
 「先生、教えてください。朝の祈りをどうすればいいでしょうか。私のところにくるお客は一足の靴しか持たない貧しい人ばかりです。私は夜遅く、彼らの靴の修理にとりかかり、一晩中仕事をします。彼らが仕事に出かけるまえに、彼らの靴を仕上げようとしても明け方になってもまだ仕事は残っている始末です。朝の祈りをどうすればよいでしょうか。」
 ラビは尋ねた。
 「今までどういうふうにしてきたのだね。」
 「ときにそそくさと祈りをすませ、仕事にもどります。そういうとき良心の呵責を覚えます。またときには、一時間祈ります。こういうとき私は空虚感に襲われます。またときおり、ハンマーをふりあげるとき、心のなかでため息をついています。『私はなんと不幸せな男だ、朝の祈りも満足にしないとは』と。」
 ラビは言った。
 「私が神なら、かずかずの祈りより、そのため息をこそ尊ぶだろう。」

アントニー・デ・メロ 著 / 裏辻 洋二 訳 「蛙の祈り」(女子パウロ会)より
画: 軽部 修司
  

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