こころの散歩

おまえはだれだ?

おまえはだれだ?

 昏睡状態にあった婦人が亡くなった。彼女はすぐさま天へ連れてゆかれ、裁きの座の前に立たされた。
 「おまえはだれだ」と天の声が言った。
 「市長の妻です。」
 「だれの妻かときいているのではない。『おまえはだれだ』ときいておる。」
 「私は四人の子の母です。」
 「だれかの母かときいているのではない。おまえはだれだ。」
 「私は教師です。」
 「おまえの職業をきているのではない。おまえはだれだ。」

 そんなやりとりが続いた。何を答えてもおまえはだれだという問いに満足な答えを返していないようだった。

 「私はクリスチャンです。」
 「おまえの宗旨をきいているのではない。おまえはだれだ。」
 「私は毎日教会におまいりし、いつも貧しい人、弱い人を手助けしています。」
 「何をしたかをきいているのではない。おまえはだれだ。」

 彼女は見事にこの試験に落ちたので、地上へ送り返された。病がいえたとき、彼女は自分がだれなのかを見究めようと決心した。
 以後、彼女の生活は一変した。

アントニー・デ・メロ 著 / 裏辻 洋二 訳 「蛙の祈り」(女子パウロ会)より
画: 松浦 志帆
  

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