こころの散歩
お弁当
お弁当
トシとサブの会話。
「そのお弁当、どこで配ってた?」
「お正月の特別プレゼントってやつでさー、あすこのヨゼフ館でもらったけどさ、たぶんもうねーよ。」
「何が袋の中に入ってるんだよ。」
「弁当は食っちまったが、ジュースだろ、下着が2枚と靴下、なんかプラスチックのじゅずみてーのもあるぞ。」
東京の山谷の冬には今年も寒い風が吹きつけている。ヨゼフ館では500食を用意したのに、その数を越える人が、配る前から列を作って待っていた。
ボランティアさんたちが、「ごめんね、もう終っちゃったの」と言う声が、寒さをいっそう厳しく感じさせる。
再びトシとサブの会話。
「オレ、知らなかったからさ、仕方ねーな。今日、どっかで炊き出しやってねーか。」
「今日はどこもねーよ。新橋か有楽町で明日おにぎり配ってるよ。」
そこへ通りかかったボランティアさんとトシの会話。
「あんた、もらえなかったのかい? はい、これあたしの。『愛してる』って言ってくれたら、あげるよ。」
「そうかい。だれだか知らねーが、あんた親切だねえ、愛してるよ!」
「ああ、あんた神さまを知ってるね‥‥。『愛してる』って言えるなんて、神さまが親切だってわかるからだよ。」