こころの散歩

お母さん、ありがとう

お母さん、ありがとう

 ある未亡人が何年間も工場で長時間働く日々を過ごし、家では4人の子供たちを育て上げました。今、その彼女はやつれ、やせこけてベッドに横たわっていました。臨終の時を迎えようとしていたのです。
 ベッドの周りには4人の子供たちが集まっていました。どの子もすっかり成長し、立派な大人になっていました。長男が目に涙を浮かべて母親に声をかけました。「お母さん、お母さんはいつも僕らによくしてくれたね。優しくしてくれて、ありがとう。お母さんって、本当にすごいよ。」
 母親はそれまで閉じていた目を開けて言いました。「どうしてそれをもっと早く言ってくれなかったのかね。お前たちはそんなこと、一言だって言いやしなかったじゃないか。」
 彼女は顔をそむけると、そのまま息を引き取ったのでした。

“Bruno Hagspiel”より
  

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