こころの散歩
かかし
かかし
ある村に大変けちな農夫がいた。ある日、彼に妙案が浮かんだ。
「そうだ。かかしを作ろう。そしたら、私の畑から鳥やけものを追っ払えるぞ。」
農夫は竹ざお三本で腕と脚を作り、わらで体を作った。かぼちゃは頭に、とうもろこしの粒は目に、にんじんは鼻に、麦の穂は口にした。
かかしができ上がると、ぼろ服を着せ、えいっとばかりに畑に打ち立てた。ところが、心臓を入れ忘れたのに気づき、一番できの良い梨を取り、わらの中に埋め込むと、ご満悦で帰っていった。
さて、かかしは風にゆらゆら揺れながら、畑に立っていた。そのうち、すずめが一羽、麦を捜して畑にやって来た。かかしはそれを見て、声をあげて追い払おうとしたが、すずめは木の枝にとまって言った。
「子供たちのために、麦を取らせてくださいな。」
かかしは、「そうはいかないよ」と答えはしたものの、食べ物を願うすずめがたいそう気の毒に思えたので言った。
「では、私の口を取ってはどうだね。麦の穂でできているから。」
すずめは麦の穂を取り、大喜びでかぼちゃ頭の額にくちずけした。かかしは口がなくなったが、とても嬉しかった。
ある朝、今度はうさぎが畑にやって来た。にんじん畑に向かって跳ねていくのを見て、かかしは脅かそうとしたが、うさぎは振り返って言った。
「にんじんを一つくれないかな。とてもおなかがすいているんだ。」
かかしは飢えたうさぎが、とても気の毒に思えたので、にんじんでできた鼻を取らせてやった。
うさぎが行ってしまうと、かかしは喜びに声をあげて歌いたいほどだった。口もなし、花の香りをかごうにも、鼻もなかったが、それでも、とても嬉しかった。
しばらくして、かかしは誰かがそばで泣いているのに気づいた。それは、母親のために食べ物を捜している男の子だった。農夫は、助けようともしてくれなかったのだ。
「私の頭を持って行きなさい。特大のかぼちゃだよ。」
畑にやって来た農夫は、かかしのみじめな姿に、かんかんになり、火に放り込んだ。その時、何かが地面に転がり落ちた。梨でできた心臓だった。農夫は、フンと笑いながら梨を取り、急を聞いて駆けつけたすずめと、うさぎと、男の子にこう言った。
「お前たちに何もかもくれただと。それじゃあ、これは私がいただいておく。」
ところが、梨を一口食べたとたん、農夫の様子は、みるみる変化した。かかしの心の優しさが、農夫に注ぎ込まれたのだった。