こころの散歩
きゅうくつな家
きゅうくつな家
「先生、私の家はとても小さくて、妻と子供たちとそれに私の義兄弟までが一つの部屋で暮らしているんです。きゅうくつで、どなり合いばかりしています。なんとかならないもんでしょうか。」
ラビは男に牛を飼っているかとたずねた。飼っていると答えると、ラビはその牛を家のなかで飼うようにと言う。
男は不思議に思いながらもその言葉に従ったが、一週間後ふたたびラビのもとを訪れ、家のなかはますます悪化したと訴えた。するとラビは、二頭の山羊も家の中に入れるようにと言う。男はこんどもラビの言葉のとおりにしたが、しばらくするとまたもやラビのもとを訪れ、以前とは比べものにならないほど事態は悪くなったと訴えた。
ラビはこんどもほかにどんな動物を飼っているかと男にたずね、犬と鶏がいると答えると、それらも全部家に入れて、一週間後にようすを知らせに来るように言うだけだった。男はすっかりあきれながらも家に帰り、賢者の助言にしたがった。
そのつぎラビのもとを訪れたとき、男は泣き叫んでいた。「もうだめです。がまんできません。なんとかしないと気が狂いそうです。先生、お願いですから助けてください!」
「まあ聞きなさい」とラビは言った。「牛を部屋から出して納屋へ入れる。山羊は庭へ放す。犬も外へ出し、鶏は鶏小屋へ入れる。そうやって二、三日たったらまた来なさい。」
二、三日後、男は見るからに嬉しそうなようすでやってきた。「先生ありがとうございました。家の中に妻と子供たちと義兄弟だけだと、なんて広々としているんでしょう。おかげですばらしくいい家になりましたよ。」
画: 松村 美智子