こころの散歩

こげた頭

こげた頭

 その日はオーブンの前で大奮闘したかいあって、お料理の出来も上々、みんなも大喜びしてくれました。ところが、デザートを出す前に、ちょっと洗面所に立ち寄って、鏡をのぞいてびっくり仰天。なんとカツラの前半分が溶けて、合成樹脂の繊維がべったりひとかたまりにくっついている。どうやらチキンにタレをかけるときにオーブンに近づきすぎたらしい。だけどもっと信じられないのは、そんなえらいことになっているのに、誰ひとり何も言わなかったこと。私に恥ずかしい思いをさせてはいけないと思ったんでしょう。
 こんなにこっけいなものを、全員が見て見ぬふりをしていたなんて! そう思うと、食堂へもどって行っても笑いが止まりませんでした。するとみんなも堰を切ったように笑い出し、たちまち部屋じゅうが笑いのウズ。
 けれどもそうして大笑いしたときから、お互いに本音で話ができるようになりました。それは、末期ガンという診断が出てからはじめてのことでした。笑って流した涙が心の扉を開いてくれて、痛みを分かち合えるようになったのです。お互いを隔てていたものがなくなって、気持ちがひとつになったのです。

アレン・クライン 著 / 片山 陽子 訳 「笑いの治癒力?」(創元社)より
画: 松村 美智子
  

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