こころの散歩
たくさんの墓
たくさんの墓
一人の男が旅をしていた。その途中、小高い丘がふと目に留まったので、ここでちょっと休んでいこうと思った。
丘の上に美しい園があり、旅人は門を入って、木の間に置かれている白い石の中をゆっくりと歩き始めた。彼の目は、石の一つに刻まれている、ある碑文に注がれた。
「アブドゥル・タレグ、8年6ヶ月、2週間と3日生きた。」 彼はこの石がただの石ではなく、墓石であることに気づき、驚いた。まだ幼くして死んだ子供がそこに埋葬されていると思い、気の毒に思った。あたりを見回すと、そばにある石もまた、墓碑が刻まれていることに気づいた。それにはこう書いてあった。「ヤミール・カリブ、5年8ヶ月と3週間生きた。」
旅人はひどく衝撃を受けた。ここは墓地であり、それぞれの石は墓石だったのだ。彼は一つ一つ墓石を読み始めた。どれも似たような墓碑だった――名前、死んだ時の人生の正確な長さ。しかし、さらに驚いたことには、11歳を越えているものがほとんどなかった。彼の心は激しい痛みに襲われ、思わず座りこんで泣き出した。
そこに墓地の管理人が近づいて来た。しばらく彼が泣いているのを黙って見ていた。旅人は管理人に尋ねた。「なぜ、ここにたくさんの死んだ子供たちが葬られているのですか? 何かこの人たちに起こった恐ろしい呪いのせいで、子供たちの墓を建てなければならなかったのですか?」
管理人は微笑んで言った。「落ち着いてください。そのような呪いはありません。ここでは一つの古い慣習があるのです。‥‥子供が15歳になった時、両親は一冊のノートを送ります。子供たちは、何か特に楽しいことがあった時に、自分のノートを開き、書き込みます。左側には楽しんだこと、右側にはその喜びがいつまで続いたかを書きます。
ある青年が恋人を見つけ、彼女と恋に落ちたとします。大きな情熱と彼女を知る喜びはどのくらい続いたのでしょうか? 1週間?2週間?3週間?3週間半?‥‥ そしてその後、最初のキスの感動、すばらしい喜びはどのくらい続いたのでしょう? 1分半?2日?1週間?‥‥ そして最初の子供が胎内にいる間、そして誕生は?‥‥ 友だちの結婚は?‥‥ 一番待ちに待った旅行は?‥‥ 遠い国から帰って来たきょうだいとの再会は?‥‥ これらのことを楽しむことができたのは、どのくらいの間でした? 何時間?何日?
こんなふうに、私たちは楽しんだその時その時の瞬間を、ノートに書いていくのです。だれかが死ぬと、その人のノートを開いて、楽しんだ時の時間を合計するのが、私たちの習慣です。その人の墓に、それを書くために。だってそれは、その人の手中にある唯一の本物の生きた時間なのですから!」
画: 泉 類治