こころの散歩

つながれている象

つながれている象

 子供の時、私はサーカスが大好きだった。特に動物の芸が楽しみで、その中でも象の動きに感動していた。芸のあと、象はいつも土に打ちこまれた「くい」に片方の足をつながれていた。「くい」は小さくて、浅く打ちこまれていた。鎖は太くて強そうに見えたが、大きな木を根っこから簡単に抜くことのできる象にとって、「くい」を抜いて逃げることは簡単なはずだと、思われた。なぜ逃げないのかと、いつも疑問に思って、たくさんの人に質問したが、ある人は、訓練されているからだと答えた。けれど、訓練されているなら、どうしてつなぐ必要があるのか、と思い、満足できなかった。
 何年か前に、本当のことが分かった。サーカスの象が逃げないのは、小さい時から同じような「くい」につながれているからなのだ。小さかった時、引っ張っても引っ張っても自由にならなかった。どんなに挑戦してみても、無駄な努力で終わった。「くい」は、小さな象にとっては強すぎたのだ。何日試しても、いつも同じように失敗した。ある日、象は自分の無力さを認めて、あきらめた。
 力強いサーカスの象が逃げないのは、できないと信じきっているからだ。

(作者不詳)
画: 泉 類治
  

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