こころの散歩

ひびの割れた桶

ひびの割れた桶

 昔、一人の雇い人がいて、毎日、天秤桶を肩にかついで、小川から家まで水を運んでいました。天秤の両端には二つの桶が掛かっていました。そのうちの一つは完全でしたが、もう一つのほうはひびが入っていました。そのため、小川から家に着くまでの間に、一方の桶の水はいつも半分なくなっていました。

 こうして、二年間毎日同じことが繰り返されて、良いほうの桶は、自分が完全に使命を果たしていることを知り、うぬぼれて自慢していました。
 しかし、ひび割れのあるかわいそうな桶は、いつも半分水を落としていることがとても恥ずかしくて、みじめな気持でした。そして、その雇い人に言いました。
 「ご主人さま、私は恥ずかしくてあなたに謝りたいのです。私のひび割れのせいで、あなたの毎日の水運びのお仕事も半分無駄にしてしまい、私は本当に役立たずです。」

 雇い人は、ひび割れの桶に言いました。
 「あなたの通る道に咲いた、あの美しい花を見ましたか?!
 毎日水を落としてくれている、あなたのひびのおかげです。
 そのままがいいのです。
 毎日、道行く人をなごませるでしょう。」

(作者不詳)
画: フェリペ ・オカディス
  

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