こころの散歩

ケシの実

ケシの実

 裕福な家の若い嫁が、ふとした風邪がもとでわが子を亡くし、悲嘆にくれて何も手につかず、半狂乱で巷を歩き回っていました。町の人びとはこの女をどうすることもできず、ただ哀れげに見送るだけでしたが、釈尊の信者がこれを見かねて、その女に祇園精舎の釈尊のもとに行くようにすすめました。
 彼女は早速、釈尊のもとへ行き、自分の身に起こったことをわめきたてるように話しました。釈尊は静かにその様子を見て、「よく解った。その悩み、苦しみをなおしてしんぜよう。そのかわり一粒でいいからケシの実をもらってくるように。ただし死者の出た家のものであってはならない」と言われます。
 これを聞いた若い嫁は、急いで村の家々を廻りましたが、死者の出ていない家は一軒も見つけることができず、肉親との別離の悲しみは自分だけでない、世のすべての人が味わっているのだ、という事実を知らされたのです。
 彼女は釈尊のもとに立ち帰ってその静かな姿に接し、初めて釈尊のことばの意味をさとり、夢から覚めたように気がついて、釈尊の弟子となりました。

仏教の経典より
  

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