こころの散歩

コップ1杯の牛乳

コップ1杯の牛乳

 ある学生が、学費を払うために訪問販売をしていました。お腹がすいていましたが、ポケットには10セントしか残っていません。それで、次に回る家で食べ物をもらおうと思いました。ところが次の家に行ってみると、ドアを開けたのはとてもきれいな女の人だったので、緊張してしまい、食べ物を頼む代わりに、「お水をください」と言ってしまいました。
 その女の人は、学生さんはお腹をすかしているにちがいないと思い、大きなコップに牛乳をなみなみとついで、差し出しました。学生は、ごくごくと牛乳を飲みほして、こう言いました。
 「何かお礼がしたいのですが…。」
 「そんなことはいいんですよ。私の母は、いつも私に、人に優しくしなさい、と言っていますから。」
 学生は、心から感謝したのでした。

 おかげで、その学生ハワード・ケリーは、その家から出た時には元気を取り戻し、神と人とをもっと信じるようになりました。

 何年かたって、その女の人は重い病気にかかりました。町の医者たちは病気の原因がわからなかったので、ハワード・ケリー博士のいる大きな病院に、彼女を転院させました。ケリー博士は、その患者の住む町の名を聞くと、ピンと来るものがあったので、病室に駆けつけ、そして、その患者があの時の女の人だとわかったのでした。それで、できるかぎりのことをして、彼女を救いたいと思いました。長い闘病生活の後、彼女はついに病気に打ち勝ちました。
 彼女の退院を前に、ケリー博士は、入院にかかった費用は、全部自分に請求してくれるようにと病院の会計に頼みました。請求書が回ってきた時、サインをして、その下に何か書き加えました。
 請求書は女の人の手に届きましたが、入院の費用は彼女が一生かかっても払いきれないほどだとわかっていましたから、封筒を開けたくないくらいでした。でも、仕方がないので開けてみると、請求書の下のところに、こう書かれていました。

 「何年か前に、牛乳で十分に支払っていただいています。」 サイン:ハワード・ケリー

(作者不詳)
画: 松村 美智子
  

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