こころの散歩

ダイヤモンド

ダイヤモンド

 一人の巡礼者が、村はずれにたどり着き、木の下で野宿の準備を始めた。そこへ突然、村の男が駆けつけてきて、息をはずませながら言った。
 「宝石、宝石。宝石をください。」
 「いったい何の宝石ですか」と巡礼者はたずねた。
 「先だっての夜、夢で天使のお告げがあったのです。夕暮れに村外れに行けば、巡礼者に会える。その人が私に宝石をくれるから、私は永遠に大金持ちになれると。」
巡礼者は袋の中をかき回し、石を一つ取り出して、男にさしだした。
 「それはたぶんこのことでしょう。二、三日前に森の小道で、見つけたのですが、どうぞ持っていって下さい。」
 村の男は石を見て驚いた。何とダイヤモンドではないか。それも、世界一大きなダイヤモンドに違いなかった。なにしろ握りこぶしほどもあったのだから。
 彼はダイヤモンドを受け取り、村に帰った。しかしその晩、どうにも寝つけず、床の中で寝返りを打つうちに夜が白み始めた。日が昇ると、巡礼者のところに出かけて行き、こう言った。
 「あれほど喜んでダイヤモンドを手放せるのだから、あなたはよほどすごい宝をお持ちに違いない。私はその宝の方が欲しいのです。」

  
画: ホアン・カトレット
  

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