こころの散歩
丸ごと、無条件に
丸ごと、無条件に
「あなたが生きているだけですばらしい」と抱きしめられ包まれることは、子どもだけではない、すべての人間にとってたいせつなことである。それによって緊張はほぐれ、心は安らぎ、明日に向かって生きていく勇気と意味をくみ取っていく。丸ごと、無条件に受容してくれる愛に満ちた人間との出会いこそ、きびしい人生を生きていくための原動力となる。逆に、それを欠くとき、人の心は不安定となり、人生からくる不条理な現実をはねのけるために力に頼るようになり、それが場合によっては暴力となって外に噴き出していくことになる。
激しい競争社会、きびしい管理社会の重圧の中で押しつぶされ痛めつけられた人々は、怒りをばねとして、それをはねのけようとする。それが時と場合によって、他の人々のかけがえのない人生を破壊してしまうところに、人間の悲しさがある。そうした不幸を繰り返さないためにも、人間に対するやさしさこそ最高の価値であるという人生観を確立する必要がある。能力や障害の有無、老いや若さに関係なく、互いの生に敬意をはらい、互いをあたたかく受容し合っていく。そうした人間に対するかぎりない愛以外に今の日本社会を救う道はない。
森 一弘 著 「カトリック司教がみた日本社会の痛み」(女子パウロ会)より