こころの散歩

二つの種

暑い夏が、果物を熟させ過ぎていきました。
秋風とともに、種たちの、夢にまで見た豊穣への冒険が始まります。根を張り、生長し、花を咲かせる良い土地を捜して飛び出そうと、生命の可能性をいっぱいにはらんで、種たちの心はうずうずしています。

二つの小さな種も、そんな将来の計画を打ち明けあいました。
「ぼくは清潔で上品で豪華なところに落ち着きたいな。肥やしの匂いのする土は大嫌いだ。残飯や汚い土くれはいやだよ」と一方の種は言い、風に乗って飛び立ちました。

これに答える間もなく、もう一方の種もそよ風に運ばれてふわりと舞い上がり、堆肥をいっぱい施した湿った土に降り立ちました。
そして、慎ましやかに、温かい土くれのかげにそっと身を潜めました。自分自身の中に、やがて生まれる命の、幸せを告げるうごめきを感じ、希望をもって待ちはじめました。

同じ頃、先に飛び立った種も、大飛行を終えるところでした。
宮殿の青銅のスレート屋根めがけて降りることにしたのです。そして、大理石の輝く階段に降り立ち、幸運に満足して大理石の孔の一つに潜り込みました。清潔で上品でしかも豪華な住まいは、誇るに足るものでした。
しかし、じきに、種は気づきました。そのぜいたくな住まいは、孤独と死をもたらす悲しい墓に他ならないと。

黄金や宝石は命を生みません。土くれと堆肥から命は生まれ、花が咲きほこります。

ホアン・カトレット 著 / 中島 俊枝 訳 「たとえ話で祈る――聖イグナチオ30日の霊操――」(新世社)より
画: ホアン・カトレット

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