こころの散歩
二匹の鬼
二匹の鬼
二匹の鬼が、一つの箱と一本の杖と一足の靴とを中にして互いに争い、一日中争って決着がつかず、なおも互いに争い続けていた。
これを見たひとりの人が、 「どうしてそのように争うのか。この品々にどのような不思議があって、そのように奪いあいをするのか」と尋ねた。
二匹の鬼はこう答えた。 「この箱からは、食物でも、宝でも、何でも欲しいものを取り出すことができる。また、この杖を手に取るとすぐに敵をうち負かすことができる。この靴をはくと、空を自由に飛ぶことができる」と。
その人はこれを聞いて、 「争うことなんかあるものか。おまえら二人は、しばらくここから離れているがよい。わたしが等分に分けてやろう」と言って、二匹の鬼を遠ざけ、自ら箱を抱え、杖を取り、靴をはいて空へ飛び去った。
鬼とは神を知らない人、箱とは捧げ物のことである。彼らは、捧げ物からもろもろの宝の生ずることを知らない。また、杖とは心の統一のこと。彼らは、心の統一によって煩悩の悪魔をうち下すことを知らない。また、靴とは清らかな心の掟のこと。彼らはこの清らかな掟によって、あらゆる争いを超えられることを知らない。だから、この箱と杖と靴をめぐって、争ってやまないのである。
(仏教経典より)