こころの散歩
人間らしさ
人間らしさ
「朝、早く、強制労働にむかって出発する時、ごく少数だが、病人の枕元に自分のその日の食糧であるパンをそっと置いていく人がいた。」
アウシュビッツに収容されたフランクルの体験記『夜と霧』のなかでこの一節を読んだ時、私は人間とはどんな最悪の環境のなかでも人間らしさを見せることができるのだと感じた。私ならとても自分のその日の食糧である一個のパンを、同じ収容所の病人に与える愛は持てそうもない。そして、私はその理由を「だって収容所の生活だぜ」と自己弁解をするだろう。「これを食べねばこの俺が参ってしまうんだから」と。しかし少数の人はあえてその愛を敢行したのだ。自分を作ることは結局、自分自身がやることなのだなあ、と私はしみじみ思う。
遠藤 周作 著 「お茶を飲みながら」
鈴木 秀子 監修 『人生には何ひとつ無駄なものはない』(海竜社)より