こころの散歩

今日のエネルギー

今日のエネルギー

 早朝カルカッタから列車にゆられること八時間、オリッサ州のラウルケラ駅で下車して、そこから車で四時間、目ざすマンディリア村にたどりついたら夕方だった。
 親友Gはかつてわたしに打ち明けたことがある。
 「わたしの母は、日時を数えることもできない無学な女性でした。わたしの誕生日を尋ねたら、『おまえは、ザーザー雨の降る日に生まれた』とだけ教えてくれました」
 「星がキラキラまたたく夜」とか、「太陽が夜明けを告げる朝」とかに、兄弟姉妹合わせて六人が生まれたのである。洗礼式のときに、教会の世話役が、幼児の歯の生え具合や、抱いたときの重さで誕生日を決め、洗礼台帳に記入したのだという。地球の自転、公転という物理的運行によって決められた共通の日時になどとらわれず、大らかに大自然のなかに生きてきた人びとなのである。
 村人のなかにあって、長兄の嫁は輝いていた。朝は三時過ぎに起き出して、ロウソクの光の下で朝食の準備を始める。食事の始めと終わりには、水差しで指を洗ってくれる。庭を掃き、わたしたちの洗濯物を世話し、まったくの他人でありながらその家が気に入って同居しているという盲人の老人の手を引いてあげる。すべてを包み込んでしまうようなその微笑に、すっかり魅せられてしまった。
 「あなたのエネルギーはどこから生まれるのですか」 と問うたら、
 「あなたがたからです」 という。
 「こんな貧しい田舎に、はるばる日本から訪ねてくれたこと、それが自分の今日の幸せであり、そこからエネルギーが生まれてくるのだ」、と説明してくれた。
 そして彼女はつけ加えた。 「ここでは、だれでも精いっぱい汗を流さなければ生きていけないのです」と。

後藤 文雄 著 「カンボジア発 ともに生きる世界」(女子パウロ会)より
画: 後藤 文雄
  

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