こころの散歩

兄弟愛

兄弟愛

 二人の兄弟がいた。一方は独り者で、他方は所帯持ちだった。彼らは二人して、たんぼを所有していた。地味豊かなので、いつも豊作に恵まれた。収穫はいつも折半していた。

 当初、何事もなく過ぎていた。さて、所帯持ちの男は時折、夜寝つくと目がさえるようになった。彼はこう考えた。
 「どうもこれは公平じゃない。私の兄弟は結婚していない。彼が手にするのは収穫の半分だ。一方私には妻と五人の子供がいる。晩年に必要な蓄えは十分にある。だが兄弟が老いたら、いったいだれが彼の面倒をみるのだろうか。今以上に将来に備えて、蓄えをしておかねばならない。そうだ、私以上に必要なんだ。」
 そこで彼は起きだし、穀物袋を担ぐと兄弟の家にそっと忍び込み、倉庫に納めた。

 独り者のほうもこのごろ寝つきが悪く、目のさえることが多かった。すっかり目がさえたとき、彼はこうつぶやいた。
 「これはまったく不公平だ。兄弟には妻と五人の子供がいる。彼が手にしているのは収穫の半分だ。私は自分一人が食べてゆけたらそれでいい。兄弟は私よりもっと多くを必要としている。彼に多くを与えるのが道理というもんだ。」
 そこで彼は起きだし、兄弟の倉庫に穀物袋をそっと置いてきた。
 ある夜、二人は同じ時刻に起きだし、背中に穀物袋を背負って、相手の家に向かって走った。

 何年もたって、二人ともに亡くなった。生前の彼らの話がもれ伝わってきた。町民たちは二人の心がけに感動し、二人を記念する寺を建立することにした。その場所は彼ら兄弟が穀物袋を背負って、鉢合わせした場所と決まった。町にはそこをおいてほかに聖なる場所はないという意見によったのである。

 宗教的であるかないかの区分をつける重要な要素は、
 礼拝するか礼拝しないかの間にではなく、
 愛するか愛さないかの間にある。

アントニー・デ・メロ 著 / 裏辻 洋二 訳 「蛙の祈り」(女子パウロ会)より
画: 和田 耕一
  

ページ上部へ戻る