こころの散歩

囚人とアリ

囚人とアリ

 その囚人は長年にわたり、独房に監禁状態で暮らしていた。だれにも会わず、話を交わすこともなく、食事は毎回、壁の差し入れ口を通して出された。

 ある日、一匹のアリが独房に入ってきた。男は魅せられたようにアリの動き回るさまを見つめていた。もっとよく観察できるようにてのひらにのせ、ちょっとした餌を与え、夜はブリキのコップの下に休ませた。

 そういうある日、彼は雷に撃たれたように悟った。アリの愛らしさをしみじみと感じられるまでに、独房での十年にわたる生活が必要だったと。

アントニー・デ・メロ 著 / 裏辻 洋二 訳 「蛙の祈り」(女子パウロ会)より
画: 松村 美智子
  

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