こころの散歩

 昔々あるところに一人の男がいました。この男は、自分を殺そうとたくらむ大勢の悪党たちに追い回されていました。
 男が洞窟の中に逃げ込むと、悪党たちは、男がいる洞窟のあたりで彼を捜し始めました。

 男は、必死の思いで神に祈り始めました。
 「全能の神よ!! あなたはこの私に二人の天使を遣わして、洞窟の入り口にふたをしなければなりません。そうすれば、私はあの悪党どもに殺されずにすむのですから・・・。」

 まもなく、男たちが彼のいる洞窟に近づいてくる音が聞こえてきました。
 その時、小さなクモが目に止まりました。そのクモは、洞窟の入り口にクモの巣を張り始めました。

 男は、あわてて、もう一度神に祈りを捧げました。今度はもっと苦しみもだえながら・・・。
 「神様!! 私があなたにお願いしたのは、クモなんかではありませんよ。私は、天使たちをとお願いしたのです。」

 そしてさらに続けました。
 「神様、心からのお願いです!! あなたの力強い御手で、私を殺そうとするあの男たちが、この洞窟に入らないように、どうか入り口に頑丈な壁を造ってくださいますように・・・。」

 すがる思いで神に祈り、洞窟の入り口が壁でふさがれていることを期待しながら、両方の目を開けてみました。ところが意に反して、クモがさかんに巣を張っているではありませんか。

 男を追ってきた悪党たちは、すでに彼が隠れている洞窟のあたりまで来ていて、入り口から入ろうとしている様子です。この時、男は自分の死を覚悟しました。

 ところが、悪党たちがいよいよ洞窟の入り口にさしかかった時、クモの巣はすでに入り口をすっかりふさいでしまっていたのです。

 その時、男たちの話し声が聞こえました。
 「さあ、行こう。洞窟に入ろう。」
 「だめだ。クモの巣が張っているのが見えないのか。誰もこの洞窟に入った形跡がない。他の洞窟を捜してみよう。」

  
画: 泉 類治
  

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