こころの散歩

天国に通じたお祈り

天国に通じたお祈り

 ある信心深いお婆さんがいました。朝から晩まで、何をやっていても、「天にまします」をとなえていました。そして、自分はきっと天国へ行けるに違いないと信じていました。
 このお婆さんが亡くなり、天国への道を歩いていると、ある門のところに来ました。きっと天国の門だろうと目を上げてみると、悪魔が番をしていました。これはどうしたことだろうと思っていると、悪魔が、「お前がそこに持っている大きな袋の中身は何だ。」と聞きます。「これは、私が生まれてから死ぬまでずっととなえていたお祈りです。」と答えますと、悪魔が持っている団扇でさっと一煽ぎしました。するとどうでしょう。袋の中のお祈りが全部飛び散ってしまったではありませんか。
 何千、何万とあったお祈りが全部飛び散ってしまったと思ったら、たった一つ残っているものがありました。悪魔が「それは何だ」と聞きますとお婆さんがしばらく考えてからいいました。「これは、あるとき私が野良仕事をしているときのことでした。急に空が暗くなり、雷が鳴り稲光がして恐ろしくて恐ろしくてたまらなかったのです。私は一生懸命に、『神様助けて下さい、神様助けて下さい』と祈ったのです。これは、そのときのもので御座居ます。」悪魔は、「そうか、それではお前を地獄にいれてやるわけには行かぬ。」と言いました。

鈴木大拙「東洋の心」より
画: 軽部 修司
  

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