こころの散歩
子猫
子猫
わたしたちは、そろそろ聖堂のなかで荘厳なごミサを始めようとしておりました。
そのとき突然、聖堂のなかで猫の声が響きました。
わたしはすぐ足で聖堂の外にほうり出しました。けれどそこは猫の天性で、四本の足を宙にのばしながらこともなく聖堂の玄関の地面に下り、逃げもせずに立ち止まって、わたしを大きな目で眺めました。その目つきはわたしの心を貫き、わたしの足を止めました。
子猫は私の仕打ちに急いで逃げるだろうと予期していましたのに、心からの深い信頼をこめてわたしを仰いだのです。
わたしが子どものときから出会った猫は、脅かす振りを見せると、きっと逃げました。あの子猫が善良なのは、人がいつも親切にしてくれるからにちがいありません。なるほど、首にはきれいな赤いリボンがついていました。悪いことを一度も経験しなかったあの子猫は、こうして今朝はじめて足でほうり出されても、悪意からではなく、むしろ親切な人のたわむれにすぎないと思ったのでしょう。そして、この善良さにはわたしも無力になってしまいました。
今でも、神がこの動物を使ってわたしにお教えくださったことについては、ひそかに驚きを感じております。神は、つねにわたしに対して親切にしてくださいました。あの子猫の赤いリボンより多くのたまものでわたしを飾りたまい、つねに必要以上のものをお与えくださいました。ですから、わたしもあの子猫のように善良な者にならなければなりません。
ヘルマン・ホイヴェルス 著 「時の流れに」(女子パウロ会)より抜粋