こころの散歩
小さい魚
小さい魚
大洋に住む一匹の魚が、もう一匹の魚に言いました。「あなたはわたしより年長で、経験もおありです。わたしを助けていただけませんか? 〈大洋〉と皆が呼んでいるものは、どこで見つけられるのでしょう? 至る所探しましたが見つからないのです。」
「〈大洋〉だって?」年長の魚が言いました。「きみが今、泳いでいるところが〈大洋〉だよ。」
「ここがですって? でもここは、ただの水ですよ。わたしが探しているのは〈大洋〉なんです。」至る所泳ぎ回っていた若い魚は、落胆して言ったのでした。
* * *
ヒンズー教修行僧の衣をまとったひとりの男が、〈師〉のところにやってきました。そして修行僧らしい言葉遣いで話しました。「わたしは何年も〈神〉を探してきました。家を離れ、〈神〉がおいでになると言われるあらゆる所で〈神〉を求めました。山の頂上、砂漠の真っただ中、修道院の沈黙や、貧者のスラム街のなかに。」
「見つかったかね?」と〈師〉は尋ねました。
「もし〈はい〉と答えたとしたら、わたしは思い上がったうそつきになってしまいます。いいえ、わたしは〈神〉を見つけることができませんでした。あなた様はお見つけになったのですか?」
* * *
小さな魚よ、探すのはおやめなさい。探すべきものは何もありません。ただじっとして、目を開き、見るのです。とらえそこなうことはありません。
アントニー・デ・メロ 著 / 谷口 正子 訳 「小鳥の歌―東洋の愛と知恵―」(女子パウロ会)より
画: ホアン・カトレット