こころの散歩

小川の石

小川の石

 師は、弟子の報告を聞くのにうんざりしていた。毎日やって来ては、すばらしい霊的進歩を遂げている次第を、とうとうと述べ立てるのだ。「先生、私は大満足です。あなたがお命じになったことは、完璧にこなしました。どんなに小さなこともおろそかにしていません。朝の祈り、昼の祈り、夕の祈り。沐浴もすませたし、聖母に新しい花も捧げました。」「先生、私はなんという果報者でしょうか。言葉に尽くせない霊的雰囲気に包まれて、優しい導きを感じます。そよ風が竹を抱くように、神様は私に接してくださるのです。」
 ついに、ある夕暮れ、師はこの思い上がった弟子に言った。「川まで一緒に行こうか。」「もちろんお供しますとも。新しい祈りの体験に進むのですか」と弟子は答えた。川辺に着くと、師は言った。「上衣をからげて川に入りなさい。流れに手を入れて、石をひとつ取りなさい。さあ、それをここに持ってきてごらん。」弟子は美しい丸石を手に、川から出た。師は石を受け取り、しげしげと眺めてから、弟子に返した。「では、この石を半分に割ってごらん。」弟子はその通りにして、きれいに割れた石を師に渡した。「このきれいな丸石をごらん。どれだけの水がこの石を包み、洗い流し、磨き上げたことだろう。けれども、水は中まで染み込んではいない。よく見てごらん。中心は乾いたままだ。相変わらず石の心だ。」弟子はうなだれて、去って行った。
 真実は痛いものだ。患部を切開し、洗い清め、そして癒す。これ以後、弟子は一日中、あれをする、これをする、で過ごすことはなくなった。神の愛のあふれる奔流に身をゆだねたのだ。柔らかい土地に水が染み透るように、彼は身も心も満たされていった。
 ある日、師は自ら弟子のところに出向き、こう訊ねた。「何ヶ月も音沙汰がないが、どうしていたのかね。」「先生、ごらんのとおりです。神に満たされています。でもそれは、神が私を変えて、柔らかい土地にしてくださったからです。」

ホアン・カトレット 著 / 中島 俊枝 訳 「たとえ話で祈る」(新世社)より
  

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