こころの散歩

微笑

微笑

 男は次第に盲目になっていました。彼は全力でそれと闘いました。医学が何ひとつ役にたたなくなってからは、気力をふりしぼってそれと闘いました。わたしは思いきって彼に言ってやる必要がありました。「あなたの盲目を愛そうとしたらどうですか。」

 それは闘争でした。当初、彼は盲目に対して何かすることはすべて拒否しました。盲目にひと言も言葉をかけませんでした。ついにそれに語りかけたとき、彼の言葉は怒りと辛辣(しんらつ)さだけでした。しかし彼は語りつづけました。やがて言葉は、ゆっくりながら、あきらめと、許しと、受容の‥‥そしてある日、自分でも非常に驚いたことに、それらは友情の‥‥愛のことばに変わっていったのです。それから、盲目を抱きしめて「君を愛している」と言う日が来ました。それは、わたしが彼の微笑を再び見た日でした。あんなにすばらしい微笑は初めてでした!

 もちろん、彼の視力は永久に失われました。しかし、その顔はなんと魅力的になっていたことでしょう。〈盲目〉が彼と同居しにやってくるまえよりも、はるかに魅力的な顔でした。

アントニー・デ・メロ 著 / 谷口 正子 訳 「小鳥の歌―東洋の愛と知恵―」(女子パウロ会)より
  

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