こころの散歩

忘れられない葬儀

忘れられない葬儀

 葬儀場をいとなむJ・テリル・ベクトルの忘れられない出来事――。

 たくさんのお孫さんがおられるご老人の葬儀のときでした。
 会場には大勢お集まりでしたが、未亡人は何も目に入らないごようす。
 そしてご遺体をながめては「うちの人らしくないわ。いつもと違うわ」と言いつづけておいででした。
 みなさん居心地悪そうにされており、私どもも、仕事は最高の出来映えでご遺体はお元気なときそのものだと申し上げましたが、未亡人は納得されないばかりか、ますます声を高くして「あの人らしくない。いつもと違う」とくり返されるばかり。
 部屋中しんとなってしまいました。
 そのとき6歳のお孫さんが未亡人を見上げ、こう言われたのです。
 「おばあちゃん、いつもと違ってもしょうがないよ。だっておじいちゃん、はじめて死んだんだもん。」

 だれもが笑いをかみ殺そうと顔をゆがめたとき、未亡人がぷっと吹き出し、部屋中に笑いの渦が巻き起こったのでした。

  
画: 軽部 修司
  

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