こころの散歩

怒れる猛牛

怒れる猛牛

  師が祈っていると、弟子たちがやってきて願った。
 「先生、祈りを教えてください。」 彼はつぎのように諭した。

 二人の男が畑を突っ切って歩いていた。すると遠くから怒り狂った牛が猛然と駆けてくるのが目に入った。土煙を上げて突進してくる牛から逃れるべく、近くのさくの方へ進もうとしたが、とてもさくにはたどりつけないと観念せねばならなかった。一人が仲間に向かって叫んだ。
 「もうだめだ。どうにもならん。祈りを唱えろ。」
 仲間が叫び返した。
 「祈ったことなんぞないんで、こういう場合の祈りを知らんのだ。」
 「心配無用。追いつかれるぞ。どんな祈りでもいいのだ。」
 「よし、ではおやじが食前に唱えていたやつにしよう。神よ、これからいただこうとしているものに、心から感謝します。」

 現実をそのままに受け入れる、そうした潔さにまさるものはない。

  
画: フェリペ・オカディス
  

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