こころの散歩

患い者の願い

患い者の願い

ある日、師父アガトンが自分で作った器の数々を街で売ろうと歩いていると、道端に座り込んでた患い者が彼を見つけてこう聞いた、「どこへ出掛けて行くのかね」。「ちょっと街までこれらを売りにね」、そう師父アガトンが答えると、「だったらひとつお願いだ。そこまでおいらを連れてっとくれ」。彼を背負って街まで来ると、「あんたがそれを売る場所でおいらを降ろしてくれたまえ」。言われるままにそうしてやった。器がひとつ売れたとき、患い者が尋ねて言った、「いまのはいくらで売れたんだい」。そこで値段を教えてやると、「だったらそれで、おいらにいいもの買っとくれ」。そこで何やら買ってやる。もひとつ器が売れたとき、患い者がまた聞いた、「いまのはいくらだったんだい」。値段をいうと、「こんどはこれを買ってくれ」。そこでそれを買ってやる。すべての器を売り終えて家路につこうと思った矢先、「お前さん、そろそろお帰りかい」と聞かれて、「そうだ」と答えると、こんどは彼がこういった、「またまた頼みごとだけど、最初においらを見かけた場所へ連れて帰っちゃくれないか」。そこで彼は患い者を背中にしょって、元いたところへもどっていった。すると男はこういった、「あんたは祝福されてるよ、アガトン。天においても地上でも、主が祝福されているんだよ」。師父が目を上げ見回すと、そこには誰もいなかった。主の御使いが、彼を試しに来てたのだった。

画: 野村 祐之

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