こころの散歩
明男のお母さん
明男のお母さん
明男は、6年生になったばかりです。小学校最後の年。明男は、お母さんが大好きですが、一つだけ不満に思っていることがあります。それは、お母さんが、学校の行事に一度も来てくれなかったことです。
ある晩、夕食をしながら、明男は、お母さんに尋ねました。
「お母さん、今年も学校に来てくれないの?」
しばらく沈黙の続いたあと、お母さんはようやく話し始めました。
「明男、見てごらん。お母さんの顔には、大きなアザがあるでしょ。やっぱり大勢の人のいるところに出て行くのは恥ずかしいよ。‥‥明男ももう6年生だからわかってくれるでしょ。このお母さんの顔のことは、明男がわかるようになってから話そうと思っていたの。明男がまだ2才の時、夕食の買い物に出かけて‥‥30分くらいだったから、明男を柵の付いたベッドに残してお店に行ったの。ところが、戻ったら大変なことになっていて‥‥お隣が火事になっていて、火がうちにも移って、半分焼け始めていたの。『大変! 明男が!』と思って、お母さんは、夢中で火の中に飛び込んだの。明男の寝ているところにたどり着くと、ふところの内側に抱え込んで、逃げて出たの。途中で、熱いメラメラしたものがお母さんの顔をなでて通ったような感じだったけど、明男をかばうのに必死だったから、気にもとめなかった。外に出て、焼けていく家をボーッとして見ていると、お父さんがかけつけてきて、お母さんの顔を見て叫んだの。『洋子、大丈夫か!!』 お母さんは顔に大やけどしていたの。‥‥それからは、お医者さんに何度も何度も通って、少しはよくなったけれど、これ以上はよくはならなかったのよ。」
明男は、お母さんが今までよりも、もっと好きになりました。
画: フェリペ・オガディス