こころの散歩
木彫師、陳
木彫師、陳
陳という名の木彫師がいた。おりしも鐘楼の細工仕事をなし終えたところだった。その仕上がりを見る者は異口同音に驚嘆し、これは神わざだとたたえた。その国の王公もこれを見にきたとき言った。
「これほどの作品を作り出すとは、希代の天才だ。」
木彫師は言った。
「私は一介の職人でございます。私は天才などではありません。ただこの一事のみを心がけております。木彫仕事にとりかかるまえの三日間、心を鎮め瞑想します。三日間の瞑想を終えますと、報酬とかいくらもうかるかとか、考えなくなります。これが五日間の瞑想になると、賞賛、恥、うまくいく、失敗するとかのこだわりがなくなります。七日間瞑想すると突如として手足、体を気にとめなくなります。
こうなると私は森に入り、木を一本一本吟味します。その木のなかにどの点から見ても申し分のない鐘楼細工が見えたらその木を持ち帰ります。こうして両手が仕事を始めます。わたしの自我は傍らにおしやられ、木とノミがまさしく出会うのです。私を仲立ちとして作品が生み出されていくのです。仕上がった細工ものを神わざだと皆さんおっしゃいますが、おそらくそういう理由によるのでありましょう。」
アントニー・デ・メロ 著 / 裏辻 洋二 訳 「蛙の祈り」(女子パウロ会)より
画: 塩谷 真実