こころの散歩

極楽と地獄

極楽と地獄

 ある時一人の気の荒い侍が禅僧の師と出くわした折に、「極楽と地獄」について話すようにしかけた。その禅僧は、関心もなさそうに答えて言った。
 「野蛮な田舎侍を相手に時を費やすのはもったいないことだ。」
 その言葉に大変傷ついた侍は、大いに憤り、刀を抜いて叫んだ。「無礼な!殺されたいのか。」
 「ああ!それです」と禅僧は静かに言葉をはさんだ。「あなたのそれが地獄というものです。」
 怒りにとらわれていた侍に対しても、丁寧な態度で教えた禅僧の言葉の真実さに触れて、少し戸惑いながらその侍は冷静さを取り戻し、刀をさやに収めて頭を下げ、その僧に教えを受けたことへの感謝を述べた。
 「それです。」と禅僧は付け加えた。「あなたのそれが極楽というものではないでしょうか。」

日本の古い説話
  

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