こころの散歩

生きる理由

生きる理由

 世界ハンセン病者の福祉に貢献したフランス人が、南太平洋の小さな島に隔離されたハンセン病者を訪ねた時の話である。
 憤りと失望と自殺がはびこる患者の中に、目立って落ち着いた顔つきをしている一人の老人がいた。彼は失望の色も浮かべず、生きるのに精一杯の様子だった。先生はその理由を探ってみた。そしたら、老人は毎朝夜明けに地面をはうようにして、隔離の囲いまで足を運んでいた。何を待っていたのだろう?昇る朝日か、それとも太平洋の曙か…。
 囲いの向こうから一人の年老いた、しわの刻まれた顔、目の優しい女の人が姿を見せるのを待っていた。彼女はひと言も言わない。老人も微笑みを返し、数秒間微笑みを交わしてから、老人は自分の部屋へ戻るのだった。生きる希望を抱いて…。
 説明を求めた先生に、老人は行った。「彼女は私の妻です。この地獄のようなところに隔離されるまで、彼女はひそかに私を看病してくれた。私の顔に軟膏を塗る時、顔の小さな部分だけを塗らないで、そこに軽く接吻するのでした。でも、症状がひどくなって、私は無理にここへ連れてこられた。毎朝彼女に会うのが私の生き甲斐、生きる理由です。」

「落ち葉「いい人生」と言うために」(ドン・ボスコ社)より
  

ページ上部へ戻る