こころの散歩
砂漠の若き聖ヒエロニムス
砂漠の若き聖ヒエロニムス
若きヒエロニムスは砂漠でひどい落ち込みを体験した。落ちこみの極みにある時、十字架のキリストが彼に現われたといわれる。ヒエロニムスはすぐひざまずき、深く身をかがめて、大仰に胸を打った。
キリストは、十字架上から彼に優しく微笑まれ、お尋ねになった。「ヒエロニムス、私に何を捧げてくれるのか。」ヒエロニムスは喜びいさんで、すぐに答えた。「すべてをお捧げします、主よ。特に、このつらい砂漠の孤独を。」
主は暖かく彼に感謝なさり、またお尋ねになった。「ヒエロニムス、他にまだ何か捧げてくれるものがあるか。」ためらいもせずに、彼もまた答えた。「断食と渇きを。」主は十字架上から、ヒエロニムスの言葉に大いに感謝と共感を示された。主も砂漠で断食をなさったことがあったから。
主はその後も何度かお尋ねになった。「他に何を捧げてくれるのか。」ヒエロニムスはその度に、よどみなく答え、時には講釈もつけた。徹夜の祈り、詩編の祈り、霊的読書等々…。
十字架上の主は、その一つ一つに微笑みながら礼を言われ、また、同じ質問をなさるのだった。「独身生活を捧げ、できる限りふさわしくこれを生きます。この荒れ地の不便さ、日中の熱さ…。」
しかしいよいよ最後にはアイデアも底をつき、ヒエロニムスは憂鬱になった。これほど英雄的な犠牲のリストにも、主はまだ満足しておられないようなのだ。沈黙が訪れた。
と、主が、ヒエロニムスを愛しげに見つめて、口をお開きになった。「ヒエロニムス。一つ忘れているよ。お前の弱さも私に捧げなさい。お前をゆるすことができるように。」