こころの散歩

福の神

福の神

 ある家に、ひとりの美しい女が、着飾って訪ねてきた。
 その家の主人が、「どなたでしょうか」と尋ねると、その女は、「わたしは人に富を与える福の神である。」と答えた。主人は喜んで、その女を家に上げ手厚くもてなした。
 すると、すぐその後から、粗末なみなりをした醜い女が入ってきた。
 主人がだれであるかと尋ねると、貧乏神であると答えた。主人は驚いてその女を追い出そうとした。すると女は、「先ほどの福の神はわたしの姉である。わたしたち姉妹はいつも離れたことはないのであるから、わたしを追い出せば姉もいないことになるのだ。」 と主人に告げ、彼女が去ると、やはり美しい福の神の姿も消え失せた。
 生があれば死があり幸いがあれば災いがある。悪いことがあれば善いことがある。
 災いをきらって幸いだけ求めることはできず、この二つをともに受け入れていかなければならないことを、主人はこの出来事を通して悟った。

(仏教経典より)
  

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