こころの散歩
私の腕になりなさい
私の腕になりなさい
防空壕から出た人々が目にしたのは、無益な憎しみの残骸だった。壊れた家々、死んだ家畜、焼けた畑。主義主張を守るために戦争をすると言うが、生命に値するほどの主義主張がはたしてあるのだろうか。
村人たちは、黙々と再建にとりかかった。まず、雨露をしのぐための家、それから家畜のためのバラック、最後に畑の柵を作った。
村の近くの丘の上に、聖キリスト小聖堂があった。近隣の村人たちは、ここを心のよりどころとしていた。農夫たちは畑が干上がれば雨ごいに行ったし、母親たちはいつも家族のだれかれのために祈っていたし、恋する者たちは、思いがかなうよう願いに通った。
だが、聖キリスト小聖堂も壊され、焼けこげた鉄骨と木材、崩れ落ち壊れたれんがの山があるばかりとなった。
人々は廃墟の中から、何日もかかってようやく目指すものを見つけ出した。それは、皆が愛し、慕っていたキリスト像だった。そのあたりに住む者すべての思いのこもったキリスト像だったが、爆弾を受けて、手も足ももぎ取られていた。
村は、寄るとさわるとこの話で持ちきりとなった。あのキリスト様をどうしたらいいだろう‥‥と。
「上手な職人に修繕を頼もう。」
「いや、いくら上手でも、前と同じにはできないよ。」
「新しいご像を手に入れてはどうかな。」
「とんでもない。このキリスト像は代々受け継いできた、尊い遺産だから、子供たちの代に残さなければ。」
村ではさまざまに議論が沸騰していたが、そんなある日、村人たちは、小聖堂に壊れたキリスト像が掛かっているのを見つけた。もとの場所に、手もなく、足もない姿のままで。そばの壁には赤い字で、不思議な言葉が書いてあった。
「あなたがたが私の腕になりなさい、あなたがたが私の手になりなさい。あなたがたが私の足になりなさい。」
画: ホアン・カトレット