こころの散歩
私はにせ金です
私はにせ金です
年老いたスーフィー教徒がいた。彼はあらゆる種類のガラクタを売って暮らしをたてていた。彼は人を裁くことをしない人だと見えた。というのも、客がしばしばにせ金で払うことがあっても、抗議することなく、そのままに受け取っていたからである。また、まだ払っていないのに、もう払ったと主張すると、相手の言うなりにしていたからである。
臨終の床で、彼は天に目をあげて言った。
「アラーよ、私はたくさんのにせ金を受け取りました。でも一度として心のなかでその人たちを裁いたことはありません。自分たちのしていることに気づいていないのだと考えました。私もまたにせ金です。どうぞ私を裁かないでください。」
天から声があった。
「他人を裁くことのなかった者をどうして裁くことなどできようか。」
アントニー・デ・メロ 著 / 裏辻 洋二 訳 「蛙の祈り」(女子パウロ会)より
画: 塩谷 真実