こころの散歩

穴の中の男

穴の中の男

 男が道を歩いているうちに、穴に落ちてしまった。その穴は深くてとても自分独りでは脱出できそうもなかったので、男はありったけの大きな声で「助けてくれ」と叫び続けた。
 そこへ見るからに博識な学者が通りかかって、穴に落ちている男を見下ろして、「こんな穴に落ちるなんて、なんて馬鹿なやつなんだ。もうちょっと注意深く行動せんといかんよ。そこから出たら、今後は気をつけたまえ。」と言い置いて、立ち去ってしまった。
 しばらくすると厳かな雰囲気の修道僧が通りかかった。彼は穴の中を見下ろして、「これから私は行ける所まで穴を降りていくから、君は来れるところまでよじ登ってきなさい。それで私が君の手を掴めたら、君を引き上げて上げられる。」と言って、穴を下り始めた。しかし、穴が深すぎて結局届かなかった。修道僧はすまないと言って、去って行った。
 さて、そこへキリストが通りかかった。彼は男が困っているのを見かけると、何も聞かずに、穴に飛び込んでしまった。そして、彼は男を自分の肩によじ登らせ、さらに腕を懸命に上に伸ばして手のひらに昇らせ、・・・ついには、男を穴から救い出すことに成功した。

“1000 Stories You Can Use” Frank Mihalic, SVD編

画: 星野 行雄
  

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