こころの散歩
窓側の男
窓側の男
入院中の二人の男は病室で、いつも会話をして過ごしていました。家族や仕事のこと、そして昔話等々…窓側のベッドにいる男は動くことが出来ましたが奥のベッドの男は仰向けのままで体を動かすことが出来ませんでした。
それで、窓側の男は、昼間起き上がって隣の男に毎日、窓から見える外の眺めを、細かく語ってあげていました。 ――空の色、人々の動き、芝生で遊んでいる子供や恋人たち、公園に戯れる白鳥、美しい大きな木、その向こうの町並みなど―― 仰向けに寝たままの男は、じっと目を閉じて想像をめぐらせながらいつもありがたく聞き、楽しんでいました。
何日か経って、窓側の男は死んでしまいました。残された男は非常に悲しみました。
そして看護婦さんに頼んで、彼が去ったあとの窓側のベッドに移り、ちょっとでもいいから、外を見たいと願いました。
けれども、そのベッドから苦労してどうにか見えた外の景色は、ただ建物の壁ばかりでした。
男ががっかりして、不思議に思っていたところ、看護婦さんは説明してくれました。
「亡くなった窓側の人は、目の見えない人でした。恐らく、動けないあなたを喜ばせるために語っていたのでしょう。」
(作者不詳)